体質性低身長に対する長期的な成長ホルモン治療の有効性と安全性について【2005年の論文を用いて身長先生が解説】【身長先生】
医師医学博士、整形外科専門医・身長先生こと田邊です。
今回は、体質性低身長に対する成長ホルモン治療の有効性と安全性についてお話しさせていただきます。
今回も当然ですが、論文をベースに解説させていただきます。
論文の紹介と研究内容
今回の内容も、皆さんに「注射を打ちなさい」とかそういったことをお伝えするものではなくて、そういった治療があるという紹介に留まりますので、その点も十分にご注意ください。
それでは今回紹介させていただく論文を紹介します。
Efficacy and Safety Results of Long-Term Growth Hormone Treatment of Idiopathic Short Stature
引用元:The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism
「Idiopathic Short Stature」
こちらは聞き慣れない単語かもしれませんが、「特発性の低身長」という意味になります。
「特発性」はすごく分かりにくいですが医学用語でして、「病気ではない、病気を特定できない」という時に使われる単語です。
一般的な言い方をすれば「体質性」という表現が適切ではないかと思います。
しばし「個性」と表現されるかもしれません。
そういった病気ではないけど身長が低い子に成長ホルモンを投与してみたが、長期的にみて安全だったかどうかを私は調べました、そんな論文です。
どんな方が書いて紹介します。
2005年に発表された論文で、
The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism
アメリカのArkansas大学の病院のStephen先生が記載してくださった論文になります。
この論文の特徴と言いますと、47,226人の患者さんが論文で考察されているということで、非常に多くの患者さんがいらっしゃったのがここから分かります。
National Cooperative Growth Study
「NCGS」というStudyがあるそうですが、そこから患者さんたちを取り出してきて調べたそうです。
7年間も最大で治療した人たちをピックアップしたというところになりますので、非常に参考になる論文だと思います。
論文の研究結果
ということで、結果の方を見ていきます。
結論から言うと、色んなタイプを見たがそれぞれすごく身長が伸びたという結果になります。
具体的な数字は後ほどお伝えします。
また安全性に関してもNCGS ISS集団において警報を鳴らすようなことがあったわけではないということで、全体を通してみると安全で有効性もあったという論文になってきます。
具体的にどういった内容か詳しく見ていきたいと思います。
「TABLE1」という表を見ていきましょう。
表1
調べる対象者とそれぞれの平均年齢がこちらです。
・Cohort1が2520人:10.5歳
・Cohort2が283人:3.7歳
・Cohort3が940人:13.8歳
また、
男性:75%
女性:25%
ということで、全体を通して見てみると平均年齢は10.9歳で、男性の方が多くて女性の方が少ないデータになってきます。
一般的に身長のことを相談に来る方は比率としては男性の方が多いですし、年齢としても10.9歳ということで、悩んだ末に治療を開始した、そういった時期になってくるのかなと思います。
もっと早い時期から治療される方が効果としては高いのかなと思いますが、このデータに関していうと、こういったデータだったということになります。
どういった結果が出たかをここから少し見ていきましょう。
「TABLE3」が結果になりますので、見ていきましょう。
表2
縦軸が治療した年数、横軸も治療した年数で、表に書いてある数字が「SD」という評価になってきます。
SDというのは0が平均で、+1SDだったらその分だけ身長が高い、+2SDだったらすごく身長が高い、そのようなデータになるわけです。
先ほど低身長と表現させていただきましたが、低身長は−2SDからです。
男性:160cm以下
女性:147cm以下
このように、身長を「SD」という形で評価することができます。
そういった形で数字が書かれているわけになります。
左から1→2→3→4→5→6→7 と見ていきます。
1年治療した人が2520人
2年治療した人が2056人
3年治療した人が1576人
4年治療した人が1138人
5年治療した人が775人
6年治療した人が487人
7年治療した人が303人
当然ですが、年数が増えるにつれて段々人が少なくなっていくというのは、その間に治療が終了されたとか、年齢的に厳しくなったりだとか、何かしらの理由で離脱したとか、研究上追えなくなったとか、そういったことで段々人数が減っていくような形になります。
最初の1年間を見てみると、−2.9〜−2.4です。
これはどういう意味かというと、−2.9SDだった子が−2.4SDまで0.5SD改善したという結果になります。
同様にして2年目、3年目という風に表を見ていくわけです。
表の一番右側、7年目を見ていきましょう。
最初の1年間が−3.0SD〜−2.3SDということで、0.7SDも改善したそうです。
そして次の年−2.3SD〜−2.0SDということで、0.3SD改善しています。
その次の年も0.3SD、そして0.2SD→0.1SD→0.1SDというように改善していることが分かります。
つまり最初の1年間は0.7SDで最も治療効果が高かった、そういったことがここから分かる形になります。
そして最初の3年ぐらいは比較的効果が高く、対して4年目以降は段々治療効果が落ちていって7年目は0.1SDしか改善しなかったという結果になっています。
逆の表現を使うと、7年後も治療効果があり、ちゃんと0.1SD改善したという風に捉えることもできると思います。
どれくらい0.7SDが大きいのかという説明をしていくと、171cmの子が174〜175cmになるイメージです。
ですので、+4cmぐらいの改善率ということになります。
2年間治療した場合だとそれを総合するわけです。
0.7SD+0.3SD=1.0SD改善したという表現になりますので、この資料から算出するには2年間治療すると171cmぐらいの子が大体178cmぐらいになった、それぐらいの幅間の治療効果ですね。
センチにすると7cmといった数値でしょうか。
3年間やると171cm→180cmになり、9cmぐらいの改善というところで非常に強い改善が認められたというのが分かります。
最後の年になると0.1SDというところで1cm程度改善したかしていないか、それぐらいの数字感というところになってきます。
ですからここから分かることとしては、最初の1年間は最も治療効果が高く、7年目も治療効果があるが、治療効果は段々減弱していくというデータになります。
成長ホルモンの安全性について
最後に安全性について見ていきます。
「TABLE5」が安全性について議論した内容になります。
表3
Event typeについてそれぞれ説明します。
Mortality:死んでしまったという意味
New malignancies:悪性腫瘍があったかどうか
Suicides:自殺した割合
Single seizures:てんかん発作
Epileptic seizures:てんかん発作
Diabetes:糖尿病
表の真ん中の「Expected no.」について、どんな人でもある程度の人は病気になるわけですが、そういったことが書かれています。
実測されたのが「Obeserved no.」になります。
その差がどうだったかというのが右側に書いてあります。
統計学を使用して妥当性が高いのか・低いのか、多く出すぎているか全然問題がないのかというのを検討したような形になります。
こうやって見てみると、全死亡率に関して言うと9.3人ぐらいが亡くなる可能性があったという記載があると思いますが、実際に亡くなったのは2人ということで、むしろ少なかったというデータになります。
他のデータも同じように見ていくと、基本的には有意差がある内容ではなくて、偶然的に多かった、もしくは少なかったというところがありうるかなというところで、このデータからは
Overall, the background rate analysis did not reveal a significantly increased incidence of any of the adverse event categories or mortality inth NCGS ISS population as compared with the general population.
要約すると、一般的な人たちと特発性低身長の子たちは特に差はなかったという説明になってきます。
まとめ
ということで、今回は論文について説明していきましたがいかがだったでしょうか。
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