肩の石灰化はマッサージで治療できる?病気の原因や治療法を解説
「肩の石灰化はマッサージで治療できる?」
肩が石灰化していると診断された方の中には、このように疑問を持つ方がいるのではないでしょうか。
結論から言うと、肩の石灰化はマッサージでは治療できず、保存療法や外科治療などが必要です。
本記事では、肩の石灰化を起こす石灰沈着性腱板炎を解説しながら、さまざまな治療法についてご紹介します。
肩の石灰化を治す方法を知りたい方は、ぜひ参考にしてみてください。
【目次】
肩の石灰化はマッサージで治療できる?
結論から言うと、肩の石灰化はマッサージでは治療できません。
どれだけ肩をマッサージしたり、ストレッチしたりしても石灰化の原因に対処しなければ、効果はないでしょう。
肩の石灰化の治療法は、進行具合によって異なります。
治療するためには、肩の炎症を抑えたり、石灰を除去する必要があります。
肩の石灰化でお悩みの方は、整形外科の医師に相談し、原因に応じた適切な治療を受けましょう。
肩が石灰化する石灰沈着性腱板炎とは?
肩が石灰化する状態を、石灰沈着性腱板炎と言います。
石灰沈着性腱板炎とは、肩腱板内にたまったリン酸カルシウムによって炎症が生じ、肩の疼痛・運動制限を引き起こす疾患です。
石灰沈着性腱板炎は、40〜50歳代の女性に多くみられます。
発症する石灰は、初期段階では濃厚なミルク状であり、時間の経過とともに石膏状へ変化します。
石灰が膨らんでくるにつれて痛みが増し、腱板から滑液包内に石灰が破れ出ると激痛が起こるのが特徴です。
肩が石灰化する原因
肩が石灰化する原因は、現代医学では解明されていません。
甲状腺およびエストロゲン代謝の障害といった内分泌疾患が関連付けられている報告もありますが、はっきりとはわかっていないのが現状です。
肩の石灰化は、進行具合によって治療法が変わります。
大切なのは、進行状況をいち早く把握することです。
肩の石灰化を放置すると、病状が悪化し、最悪の場合は外科治療が必要になります。
肩に違和感や痛みが生じ、継続する場合は、迷わず整形外科を受診してください。
肩が石灰化すると起こる症状
肩が石灰化すると、痛みが生じます。
痛みは、急性のものと慢性のもので異なるのが特徴です。
急性の場合、激しい痛みが突発的に起こり、肩を動かすことができない状態になります。
慢性の場合、インピンジメント症候群が起こり、肩を動かした際の痛みやひっかかるような感覚が生じます。
インピンジメント症候群とは、腱板断裂などの損傷を伴わない状態で痛みが生じる疾患です。
上腕骨と肩峰の間に腱板の一部や肩峰下滑液包などが挟まれ、刺激が加わることで、激しい痛みが生じます。
急性・慢性の場合も、夜間帯に痛みが強くなる可能性があり、眠りが妨げられることがあるでしょう。
肩の石灰化を診断する方法
肩の石灰化を診断する方法は、以下の通りです。
- X線検査
- 超音波検査
- MRI検査
一般的に、石灰沈着性腱板炎を識別するために最初に行われるのがX線線検査です。
超音波検査の場合は、石灰化を確認しながら位置を特定するために活用されます。
MRI検査は、関節唇損傷や腱板断裂などの疾患と鑑別するために活用可能です。
医師の指示のもと、石灰化の状況に応じて検査を受けましょう。
X線検査
X線検査は、石灰沈着性腱板炎を識別するための画像診断法です。
肩の痛みを訴える患者さんに対し、最初に行われることが多い検査です。
前後方向・中立・内旋・外旋・腋窩・出口の写真を撮ることで、石灰化の状態を捉えます。
石灰の沈着具合によって、境界が明確なものもあれば、境界を持たない半透明のものが確認できます。
超音波検査
超音波検査は、腱板内の石灰化を確認し、位置を特定する検査です。
石灰化している場合、後部音響陰影(画像情報が取得できず影として映る)の有無にかかわらず、病気の中心部が表示されます。
腱板断裂や上腕二頭筋の病理などの関連症状が検出でき、肩峰下のインピンジメントを評価する用途としても活用できます。
MRI検査
MRI検査は、石灰化の骨内移動を評価するために使用する検査です。
石灰化が進行してむくんでいる場合、腱板断裂の有無によって信号が変化する可能性があります。
手術前などの石灰の位置を詳細に確認したい場合や、関節唇損傷や腱板断裂などの疾患と鑑別するために活用できます。
肩の石灰化を治す方法
肩の石灰化を治す方法にはさまざまな方法があります。おもな治療法は以下の通りです。
- 非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)
- ステロイド注射
- エコーガイド下ニードリング法(UGN)
- 体外衝撃波(ESWT)
- 理学療法
- 関節鏡手術
急性の石灰化の場合、痛みを和らげることが大切です。
まずは、鎮痛作用を含む非ステロイド性抗炎症薬を服用しましょう。
痛みが軽減できない場合は、ステロイド注射を打つ場合もあります。
上記以外には石灰を吸引するエコーガイド下ニードリング法や、高出力の音波を患部に照射する体外衝撃波治療などが挙げられます。
慢性の石灰化の場合、理学療法や関節鏡視下手術なども有効です。
整形外科の医師に相談の上、肩の状態に応じた適切な治療を選択しましょう。
非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs:Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs)は、鎮痛作用・抗炎症作用・解熱作用をもつ薬剤の総称です。
医療機関で処方されるおもな非ステロイド性抗炎症薬は以下が挙げられます。
- スルピリン(メチロン®など)
- アセトアミノフェン(アンヒバ®、カロナール®など)
- ジクロフェナク(ボルタレン®など)
- ロキソプロフェン(ロキソニン®など)
- アスピリン(バファリン®など)
- インドメタシン(インダシン®など)
- メフェナム酸(ポンタール®など)
非ステロイド性抗炎症薬を服用することで、肩の石灰化に伴う痛みが和らぎます。
一方で、副作用として腹痛や吐き気、発疹や食欲不振などが起こる可能性があるでしょう。服用する際は注意が必要です。
ステロイド注射
ステロイド注射は、非ステロイド性抗炎症薬を服用しても痛みが軽減できない場合に選択される治療法です。
肩峰下のインピンジメントや滑液包炎(袋の中に液体がたまってふくらんだもの)症状を軽減するために使用される場合があります。
エコーガイド下ニードリング法(UGN)
エコーガイド下ニードリング法(UGN:Ultrasonography Guided Needle)とは、石灰を吸引する治療法です。
エコーガイド下ニードリング法には、単針技術と2針技術の2つの方法があります。
単針技術は、石灰沈着内部に1本の針を挿入し、シリンジ内にカルシウム沈着物を吸引する方法です。
一方で、2針技術は、2本目の針が挿入されたタイミングでシリンジ内にカルシウム沈着物を吸引する方法です。
体外衝撃波(ESWT)
体外衝撃波(ESWT:Extracorporeal shock wave therapy)とは、高出力の音波を患部に照射することで、組織修復作用と治癒効果を引き出す低侵襲な治療法です。
ヨーロッパを中心に行われている治療法であり、石灰沈着性腱炎に対して有効な治療法とされています。
森整形外科医院・聖マリア病院では、外来患者7名に対し体外衝撃波治療を行ったところ、疼痛緩和や機能改善に対し効果を得たと報告されています。
理学療法
肩の石灰化が慢性であり、インピンジメント症候群や関節拘縮(関節が硬くなり、動きが制限される)が起きている場合は、肩甲帯を含めた理学療法を行う必要があります。
肩に痛みが生じる場合は、逆効果になるため、痛くない範囲で弱い負荷をかけることが大切です。
関節鏡視下手術
慢性の石灰沈着性腱板炎の場合、関節鏡視下手術が有効です。
関節鏡視下手術とは、関節を切開することなく、関節内を手術していく治療法です。
直径1cm程度の細い棒状の先端にCCDカメラを搭載し、モニタに映し出された映像を見ながら病変部分を確認します。
関節鏡を入れるための手術創は1cm程度で済むため、侵襲性が低く、術後のリハビリも早期に行えるのが特徴です。
市立甲府病院整形外科では石灰沈着性肩腱板炎の3例に対し、関節鏡視下手術を行い、良好な経過が得られたと報告されています。
石灰沈着性腱板炎の痛みを和らげる方法
石灰沈着性腱板炎が発症し、肩の痛みが生じても、すぐに病院に行けない場合は以下の方法を実践してください。
- アイシング
- 安静・提肘
- 湿布
上記はあくまで応急処置として痛みを和らげる方法です。
石灰沈着性腱板炎を放置すると、症状が悪化するため、速やかに整形外科を受診してください。
アイシング
激痛の原因の多くは、炎症です。炎症は、アイシングすることで緩和できるとされています。氷をビニール袋に入れ、肩に15分程度当てて冷やしましょう。
注意すべき点は、冷やしすぎないことです。
20分以上冷やしすぎると、凍傷が起こる可能性があるため、注意してください。
15分程度冷やしたら、常温に戻して再び冷やします。
安静・提肘
肩の痛みがひどい場合は、肩をなるべく動かさないように安静にしておきましょう。
可能であれば、三角巾などで腕を包み込むように固定しておくと効果的です。
三角巾などがない場合は、逆の手で幹部側の前腕から肘を持つようにすると、同様の効果が期待できます。
湿布
炎症を抑えるために、消炎鎮痛作用をもつ湿布を貼ることも効果的です。
ドラッグストアなどで販売されているため、手持ちがない方は、購入することをおすすめします。
湿布の副作用などが出やすい方は、アイシングや安静・提肘を優先しましょう。
まとめ
肩の石灰化はマッサージでは治療できません。
治療するためには、石灰化の進行状況を考慮し、適切な治療法を選択する必要があります。
石灰化の進行状況を把握するためにはX線検査や超音波検査、MRI検査などを行い、石灰化の状況や位置を特定しなければなりません。
肩の石灰化には、急性のものと慢性のものがあります。
急性の石灰化の場合、痛みを和らげることが重要です。
そのため、鎮痛作用を含む非ステロイド性抗炎症薬を服用しましょう。
痛みが軽減できない場合は、ステロイド注射も効果的です。
上記以外には石灰を吸引するエコーガイド下ニードリング法や、高出力の音波を患部に照射する体外衝撃波治療などが挙げられます。
慢性の石灰化の場合、理学療法や関節鏡視下手術なども有効な治療法です。
肩が石灰化している方は、整形外科の医師に相談の上、肩の状態に応じた適切な治療を行いましょう。